一棹の物語
山形県米沢市在住/高梨さま/20代女性
「これは、ばあちゃんが嫁入りしてからしばらくして、じいちゃんが買ってくれた箪笥なんだって。」
昭和30年代、ご主人が奥様の衣装収納として想いを込めて贈られた一棹の衣裳箪笥。
当時としてはとても贅沢な品だったといいます。
ご夫婦で丁寧に使い続けてこられたその箪笥も、長い年月の中で各所に傷みが生じ、やがては静かに役目を終えかけていました。
そんな箪笥に、再び光を当てられたのはお孫さん。
「捨てるにはしのびない」「元気なうちに、じいちゃんに見せてあげたい」と、
その眼差しには、ご先祖への敬意と、家族の歴史をつなごうとする誠実な想いがにじんでいました。
修復を終えた日、ご家族皆さまでのお披露目会が開かれました。
90代になられたおじいさまの前に、あの頃と変わらぬ姿を取り戻した衣裳箪笥が据えられると、
「いやぁ…懐かしいなぁ。見違えたねぇ」と、目を細めて微笑まれました。
すると、自然と始まったのは、懐かしい昔話の数々。
引き出し一つひとつに詰まっていた日々の記憶が、ゆっくりと、そしてあたたかく開かれていくようでした。
──一棹の箪笥が、家族の記憶と絆を結び直す。
そんなかけがえのない瞬間に立ち会えたことを、私たちも職人冥利に尽きる思いで受け止めております。
時を超えて、いま再び命を吹き込まれた衣裳箪笥。
どうかこれからも、ご家族の暮らしの中で、静かに寄り添い続けてくれますように。
私も、願いを込めて──。




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