明治期の名古屋箪笥 ビフォーアフター
愛知県名古屋市在住/山川様/女性
10年前のテレビ報道から始まったご縁
今回の修復には、忘れられないプロローグがあります。
ご依頼主様が私共の活動を初めて知ってくださったのは、今から約10年前のこと。
当時放送された、私たちの時代箪笥修復への取り組みを紹介するテレビ番組をご覧になったことがきっかけでした。
その後、ご家庭の事情もあり一度は保留となりましたが、お客様の心の中には、ずっと
「いつか、あの山形の職人に直してもらいたい」
という想いが灯り続けていたのです。
そして10年の時を経て、再び届いた一通のご連絡。
ついに、この一棹をお預かりする日がやってきました。
家族の歩みを物語る「奇跡の一棹」
名古屋市のお客様から託されたのは、明治期に製作されたとみられる衣裳箪笥です。
一宮市で機織り業を営む商家へ嫁がれたご祖母様が持参され、その後、お母様へと受け継がれてきたこの箪笥。
まさに、ご家族の歴史そのものとも言える存在でした。
修復前の状態は、近年お預かりした中でも特に傷みが激しく、塗膜の剥離や木地の痩せ、歪みなどが随所に見られました。
それでもなお、百年以上の時を越え、今日まで形を留めていたのは、ご家族が
「いつか直して、もう一度使いたい」
と願い、処分することなく守り続けてこられたからこそです。
そこに存在し続けていたこと自体が、まるで奇跡のように感じられました。
「尾張の上品」と「北の堅牢」の交差点
今回の箪笥を拝見し、改めて日本の家具文化の奥深さを感じました。
尾張・名古屋の意匠(名古屋箪笥)
一本物の本体に、五段の大引き出しと小引き出しが並ぶ構成。
これは畿内の箪笥にも通じる、「衣裳を美しく収納すること」に重きを置いた、上品で素朴な様式です。
主材には桐が用いられ、軽やかでありながら、暮らしに寄り添う柔らかな美しさを備えています。
越後・東北の意匠(時代箪笥)
一方、越後や東北地方の時代箪笥は、重厚な鉄金具で覆われ、火災や震災から貴重品を守るための「堅牢さ」が追求されてきました。
その力強い金具意匠には、雪国ならではの暮らしと、防災への知恵が色濃く宿っています。
本来、それぞれ異なる地域文化の中で育まれてきた意匠ですが、今回の修復では、あえてこの
「尾張の上品な美」に、「東北の力強さ」を融合させる試みを行いました。
時代感を守り、想いをつなぐ「山形の大型金具」
ご依頼主様からいただいたご要望は、
「時代感を損なわないように仕上げてほしい」
というものでした。
そこで今回、丸形の錠前金具には、当店で長年大切に保管してきた「同時代の山形製大型金具」を採用しました。
現代製の新しい金具ではなく、同じ時代を生き抜いてきた本物の古金具を合わせることで、箪笥全体に自然な重厚感と説得力が生まれます。
もともとの名古屋箪笥が持っていた上品な佇まいに、東北・山形ならではの堅牢な丸形錠前金具を据えることで、箪笥はより豊かな表情を宿しました。
彫り込まれた「蔦(つた)の葉文様」は、古くから女性紋としても親しまれ、子孫繁栄や長寿、そして“絆の継承”を象徴する意匠です。
尾張の文化で育まれた箪笥が、北の意匠をまとい、新たな生命を宿した瞬間でした。
【後日談】箪笥が繋いだ母娘の対話
お届け後、お客様から胸が熱くなるようなお電話とメールをいただきました。
「想像以上の仕上がりに、改めてヤマヒョウさんにお願いして良かったと実感しております。井上さんのお言葉に、待つ時間さえも楽しく、ワクワクしていたのを覚えています」
実は、この箪笥を誰よりも大切にされていたお母様が、今年はじめに100歳でご逝去されました。
修復完成のお姿を生前にご覧いただくことは叶いませんでしたが、新しく蘇った箪笥と向き合ったお客様は、
「まるで母から励まされているように感じます」
と、お話しくださいました。
「家具を直す」のではなく、「想いを受け継ぐ」
時代箪笥の修復は、単に古い家具を綺麗にする仕事ではありません。
そこに刻まれた家族の記憶を救い出し、次の世代へ受け継ぐための“時間をつなぐ仕事”だと、私たちは考えています。
「家具を捨てるを、なくす。」
100年以上の歳月を経て、再び息を吹き返したこの和箪笥。
お母様の慈しみと、ご家族の想いを宿しながら、これからも静かに暮らしを見守り続けていくことでしょう。
山川様とのご縁に深く感謝申し上げます。
































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