米沢時代箪笥 ビフォーアフター
山形県朝日町在住/松尾様/70代ご夫妻
今回ご紹介するのは、静かに時を重ねてきた明治期の米沢(置賜)箪笥です。
長年、納屋の二階で大切に保管されていた一棹でしたが、経年による傷みが進み、一度はその役目を終えようとしていました。
しかし、 「先祖から受け継いだ箪笥を、もう一度暮らしの中で使いたい」 というご夫妻の温かな想いを受け、このたび修復再生のご依頼をいただきました。
米沢箪笥といえば「桜丸」の錠前金具が広く知られていますが、**今回の一棹に施されていたのは、大変希少で縁起の良い「熨斗押さえ(のしおさえ)」の意匠。**置賜地方の箪笥らしい重厚な佇まいの中に、家族の繁栄を願う当時の職人の粋が息づいています。
製作当時の風合いを極力損なわぬよう、構造補修、丁寧な洗浄、金具調整、そして塗装修復を重ね、再び日常の中で安心してご使用いただける状態へと息を吹き込みました。
お届け先は、ご先祖様を祀る歴史ある仏間。
納屋から仏間へ──。 それは単なる家具の配置換えではなく、箪笥にとっては最もふさわしい場所への「里帰り」であり、ご夫妻からご先祖様への、最高の供養の形でもありました。
設置を終えた瞬間、まるで以前からずっとそこに在ったかのように空間へ自然と溶け込み、ご夫妻の笑顔とともに、とても穏やかな時間が流れ始めました。
吉祥の象徴である「熨斗」の金具が施された箪笥が、こうして時を超えて仏間に収まった光景。その場に立ち会わせていただきながら、まるでご先祖様も微笑み、この新たな始まりを静かに見守っておられるかのように感じられてなりませんでした。
時代箪笥は、単なる古い家具ではありません。 そこには、ご家族の歴史、暮らしの営み、想い出、そして**“生きてきた時間”**そのものが刻まれています。
役目を終えかけた箪笥が、職人の手を経て、再び人の暮らしに寄り添い、新たな時間を刻み始める――。
「家具を捨てるを、なくす。」
修復士として、この信念のもとで大切な想いを未来へ繋ぐ瞬間に立ち会えることを、心より幸せに感じております。































この記事へのコメントはありません。