明治44年の衣裳箪笥 ビフォーアフター
東京都在住/八柳様/女性
ご家族の歴史を刻んできた一棹が、新たな暮らしを歩み始めました。
東京都にお住まいの八柳様より、秋田県湯沢市のご実家に遺されていた明治期の衣裳箪笥の修復・再生をご依頼いただきました。
この箪笥は、曾祖父様、あるいは高祖父様の代に求められたものと思われます。
診断の結果、製作年代は明治期。一般的な嫁入り箪笥に見られるような引き出しごとの錠前は備えておらず、寸法もやや小ぶりであることから、婚礼家具ではなく、ご家族の日常使いのために誂えられた衣裳箪笥と推察しました。
着物を三つ折りにして収納する小袖用、あるいは普段着や帯、長襦袢などを納めるための一棹だったのでしょう。
控えめな大きさには、どこか愛らしさがあり、日々の暮らしに寄り添ってきた面影が今も残されていました。
修復作業を進める中、一番下の引き出し側板から「明治四十四年」と記された墨書が見つかりました。
その年は、八柳様のお祖父様がお生まれになる約七か月前。
「祖父のために用意された箪笥だったのかもしれません。」
そんな八柳様のお言葉に、この箪笥が百年以上にわたり、ご家族の歴史を静かに見守ってきたことを改めて感じました。
今回の修復では、木地の傷みを丁寧に補修し、当時の趣を尊重しながら深みのある赤褐色に仕上げました。
艶を抑えた落ち着きのある風合いとすることで、明治の時代感を大切に残しています。
また、八柳様はこの箪笥を壁際ではなく、お部屋の間仕切りとして使いたいというご希望をお持ちでした。
そのため背面まで美しく仕上げ、現代の住まいにも自然と溶け込む一棹へと再生いたしました。
完成写真をご覧になった八柳様からは、
「胸が熱くなる思いで拝見しました。」
とのお言葉をいただきました。
そして、お祖父様のご命日から四十年という節目を迎えた頃、故郷・秋田から山形の当再生工房を経て、東京へと箪笥は届けられました。
納品後には、
「新しい匂いと井上様からの心温まるお手紙も手伝って、感動的な落涙の時間でした。」
という、大変ありがたいご感想をお寄せいただきました。
百年以上、ご家族の歴史を見守り続けてきた一棹が、これからは東京で新たな歴史を刻み始めます。
私どもは、傷んだ木や金具を修復することはできます。
しかし、箪笥にもう一度命を宿してくださるのは、その箪笥を大切に迎え入れ、家族の歴史とともに未来へ受け継ごうとされる、お客様の想いです。
八柳様のもとで、この箪笥がこれからも暮らしに寄り添い、次の世代へと受け継がれていくことを心より願っております。






























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