明治期の面影と受け継がれる想い
東京都足立区在住/上田様/40代女性
山形県山形市内の古民家にひっそりと佇んでいた一棹の和箪笥。
時代は明治、当時この地で暮らしていたご先祖が使用していたと思われます。
その意匠には、仙台箪笥の影響が色濃く見られ、
正面には牡丹を模した大型の錠前が据えられています。
素朴な木地の中に、静かに咲き誇るような華やかさ。
豪奢ではないけれど、使う人の誇りと美意識が息づいています。
しかし、家は長らく空き家となり、この春、ついに手放されることに。
「家を売ってしまった」という現実が、ご遺族にとっては次第に重くのしかかり、
「せめて、先祖の息吹が残るこの箪笥だけでも残したい」と強く願うようになったそうです。
そんな想いを受け、私はこの一棹を丁寧に引き取り、修復を施しました。
単なる“収納道具”ではない、家族の歴史と心の拠りどころとしての時代箪笥。
次の世代へ、そして次の百年へと、確かにその命をつなぎます。
◆再生のポイント
木地のやさしい風合いを活かした調整と研磨
金具は錆を落とし、意匠を際立たせる黒染めで再仕上げ
引き出しや構造部のゆるみを調整し、実用にも耐える状態に
こうした「想いのこもった再生」が、私たちの仕事の原点です。
大切な誰かと暮らした記憶を、箪笥というかたちで次代へと繋げていく——
その橋渡しを、これからも丁寧に続けてまいります。







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