「ごめんね。夫が生きているうちに見せたかった。」

山形時代箪笥 ビフォーアフター

山形県山形市在住/中川様/70代女性

想いを未来へつなぐ再生の物語

1.倉庫の奥で眠り続けていた、嫁入り道具

今回ご依頼いただいたのは、山形市内の旧家に長年保管されていた衣装箪笥の修復再生でした。

その箪笥は、亡きご主人のお母様が嫁入りの際に持参されたもの。

お祖母様のご実家は医者の家系で、当時としては大変裕福な環境にあったことから、

嫁入り道具も吟味を重ねて誂えられたものであったことがうかがえます。

上質な木地、重厚な金具、丁寧な指物細工――。

細部には、娘の幸せを願う親の深い愛情と、「良いものを永く使い継ぐ」という時代の価値観が、今なお静かに息づいていました。

しかし、お祖母様が亡くなられてから、その衣装箪笥は長年、倉庫の奥で静かに眠り続けることになります。

「いつか何とかしたい。」

そう思いながらも年月は流れ、箪笥は埃をまとい、倉庫自体も老朽化が進んでいきました。

そして今回、倉庫の解体撤去が決まったことで、ご家族は改めて箪笥と向き合うことになります。

2.新聞記事との出会いが、今日へつながっていた

実は奥様は、以前、新聞社で紹介された当社の「時代箪笥修復再生」の記事を読まれていたそうです。

「もし機会があれば、いつか直してもらいたい。」

その想いを、長い年月にわたり心の中で温め続けてこられました。

記事は切り抜いて大切に保管されていたそうで、今回のご相談は、その時の記憶と想いがきっかけになっていたとのことでした。

長い年月を経てもなお、当社の取り組みを覚えてくださっていたことに、私たち自身、大変ありがたい気持ちになりました。

単に“家具を直す店”としてではなく、「想いを受け継ぐ仕事」として記憶に留めていただいていたことを、深くうれしく感じています。

3.“処分”の前に知りたかった、本当の価値

「このまま処分してしまって良いのだろうか。」

その迷いが、再生への第一歩でした。

さらに、お祖母様のご実家の背景を考えるうちに、

「嫁入り道具として準備された箪笥も、きっと良質なものなのではないか。」

という思いが自然と湧き上がったそうです。

そこでご利用いただいたのが、当社無料サービス「和箪笥診断」でした。

和箪笥診断士が細部まで拝見したところ、その箪笥は、山形箪笥の意匠を基調としながらも、

庄内地方特有の優れた金工技術と文化性を宿した、大変見応えのある一棹であることが分かりました。

重厚でありながら品格を失わない佇まい。
繊細な金具細工。
そして時代背景を映す構造美。

それは単なる古家具ではなく、地域文化と家族の歴史を今に伝える、かけがえのない存在でした。

4.義母、そして亡きご主人への想いを込めて

ご主人はすでに他界されていましたが、奥様は、

「義母が大切に使っていた箪笥を、もう一度よみがえらせたい。」

そう決意され、修復再生という道を選ばれました。

長い年月を経て傷みが進んでいた箪笥でしたが、木地の補修、塗装、金具の調整など

、一つひとつ丁寧に手を加えながら、本来の美しさを引き出していきました。

そして修復を終え、お届けの日。

再生された衣装箪笥をご覧になった奥様の第一声は、

「この箪笥、本当にうちのですか?」

続けて、

「想像以上の出来栄えです。」

という驚きと喜びのお言葉でした。

さらに、お帰り際には、

「感謝・感激です。」

と、笑顔でお声を掛けてくださいました。

5.静かに語られた、忘れられない一言

そしてその後、ふと静かに話されたのが、

「ごめんね。夫が生きているうちに見せたかった。」

という一言でした。

その言葉には、義母から受け継がれた暮らしの記憶、ご主人と共に歩んだ人生、

そして“残して良かった”という深い想いが込められているように感じました。

倉庫の解体は、ひとつの終わりだったのかもしれません。

けれど同時に、それは長い眠りについていた箪笥に再び命を宿し、家族の想いを次代へつないでいく、新たな始まりでもありました。

6.私たちが修復しているのは、「家具」だけではありません

私たちは、単に古い家具を直しているのではありません。

家具に宿る家族の時間や記憶。
その背景にある暮らしや文化。
そして、受け継ぎたいという人の想い。

それらを次の世代へつないでいくことこそ、和箪笥修復の本当の役割なのだと考えています。

一棹の箪笥が再び暮らしの中によみがえることで、家族の記憶もまた、新しい時間を刻み始めます。

今回の修復再生は、私たちにとっても、「想いを未来へつなぐ」という仕事の意味を改めて深く感じさせていただいた、大切な出来事となりました。

ヤマヒョウ家具修復家

「よみがえれ、時代箪笥!」
日本の古箪笥に魅せられること52年…地域文化や民衆の知恵から誕生した美しき和箪笥は100年を経てた現代でも私達を魅了し続けています。

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